創作四字熟語は、情報量のぎゅっと詰まった漢字を用いて、一年を振り返る知的な遊びです。十の入選作を眺めれば、たった四十字から、その一年が浮かびあがってきます。三十年分をまとめて振り返ると、今では当たり前になっていることが取り上げられていたり、逆に今もっと深刻化していることが、このあたりから始まっていたのかと気づかされたり。コンパクトにまとまった世相の年表を見るような思いがしました。

　「二世風靡（にせいふうび）」（平成２年）や「税途多難（ぜいとたなん）」（同２４年）は、相変らずですね。「利息三文（りそくさんもん）」（同５年）で驚いていましたが、今や「利息負利（りそくふり）」（同２８年）。「名字対等（みょうじたいとう）」（同７年）の夫婦別姓問題や「仮装狂騒（かそうきょうそう）」（同２７年）のハロウィンはこの頃から。「着歌繚乱（ちゃっかりょうらん）」（同１１年）「一指送電（いっしそうでん）」（同１２年）「公開日記（こうかいにっき）」（同１７年）など、ネット周辺の現象はすでに日常です。「惨三九度（さんさんくど）」（同１６年）、「天威無法（てんいむほう）」（同２３年）などの気象異常は言葉が追いつかないほど。「台量発生（たいりょうはっせい）」が去年のワードだったことを思うと、今年は何と表現すればよいのか途方に暮れてしまいます。

　近年は、政治や経済の停滞感、多発する天変地異など、息苦しさは否めませんが、「四士奮銀（ししふんぎん）」（同２８年）や「棋聡天才（きそうてんさい）」（同２９年）など、スポーツや文化に明るい話題が多いように感じました。

　令和の時代にはどんな創作四字熟語が生まれるのか、楽しみです。

俵　万智（歌人）